知的なアウトローじゃなきゃ意味がない

ミュージシャン:The Doors
タイトル:Self Title(邦題:ハートに火をつけて)

ロックなんてガキの音楽だ。オールディーズの映画でリーゼントの少年とワンピースの女の子が「Johnny・B・Goode」をバックに踊るチャチな青春イメージが拭えないし、The Beatlesの初期のファン層の殆どは女の子でキーキー猿みたいな歓声ばかりで、コンサートはうんざりするような様相だ。
そんな固定概念を音楽評論家の大先生がシュトラウスを聴きながら皮肉のように愚痴るのを否定出来ないのが事実だった。彼らの登場までは…。

「The Doors」バンド名はウィリアム・ブレイクの詩句「the doors of the perception(知覚の扉)」の一節から付けられた。名門UCLAの映画科の学生だったレイ・マンザレクと後にロック界の永遠のカリスマになるジム・モリソンが中心となり結成される。印象的で優れた曲を作るレイと幼い頃から内気な読書家で知的な素養が抜群のジムが出会って作り上げられたバンドは地元で圧倒的な人気を築き上げていく…。
他のバンドとの差異は、歌詞の圧倒的なまでの文学的内容だ。サイケデリックなトリップによる幻覚を克明に記したナンバーから、近親相姦、エディプスコンプレックスを吐露した人(特に男子)が逃れられないカルマを歌った内容まで、ベイビー!イエー!愛してるぜー!に飽き飽きしていた、ニューエイジにがっつり需要が合致したのだ。
そして、ビートルズが「サージェントペパーズ〜」を発売し、クリーム等ブルースロックの波が盛り上がっていた時期にドアーズはデビューした。
時代はサイケじゃなきゃブルース、もしくはその両方と時代が新しい音楽の危険な快楽にやられていったその時に最もエッヂでデンジャラスだったのが彼らだった。アメリカ人らしくブルージーで土臭いリズムを見せながら、要所要所に顔を出す印象的なオルガン。サイケデリックでくらくらするようなキーボードパートは目眩がするほど素敵だし、それに被さるジムの囁きと咆哮は野卑さとは程遠い、神の御使いかと思うほどの絶対的な力を持つ。
では、後述で曲目を詳しく語っていきたい。


1.「Break On Through」
印象的なオルガンイントロから始まり、ジムの力強い歌とシャウトがインパクト大の掴み曲。曲構成自体は単純なのだが、印象的なリフの反復が圧倒的な力をジムとプレイヤー陣の交互作用として与えており、結果として凄みが曲に生まれている。


2.「Soul Kitchen」
一点穏やかな曲調になったかと思うかと、今度はジムの歌の独壇場。シンガーとしてこれでもかと歌いまくる。一本調子にならないのも優れたフロントマンの証だろう。曲自体はブルージーさを持つ佳曲。


3.「Crystal Ships(水晶の船)」
ロマンチックなバラード曲。ここでのジムはロマンと刹那さに表現の意識を割いているように感じられる。歌詞も悲しくブルーな内容となっている。


4.「Twentieth Century Fox(20世紀の狐)」
ミドルテンポでリラックスし、少しファニーにも感じられるように歌われている。曲自体も2分半と短いが合間にもクオリティを落とさないのは流石。


5.「Whiskey Bar(Alabama Song)」
サーカスのピエロが素敵とも不気味とも捉えることが出来るような笑顔を浮かべ、子供たちの元に近寄り、バルーンを手渡している。純粋な彼らは道化の内面など知る必要もないし、疑いもしないだろう。そしたら、なんだが物憂げなメロディが流れはじめ、いっぺんに彼らはお家に帰る時になる。「また、明日…また、明日…」みんながママの元に向かう間もピエロはニコニコ笑う。鉄面皮笑顔の下にあるほんとの表情は笑っているのだろうか、それとも泣いているのだろうか…果たして…それとも…


6.「Light My Fire(ハートに火をつけて)」
このアルバムのハイライトであり、解散までバンド自体を呪いのように締め付けた代表曲。イントロからして聴いた後の快感を約束された名曲ではあるのだが、アルバム版の長尺インストパートの優しさとも暴力とも無縁な、不気味なこの世にあらざる幻想的な虚ろさは他には一切真似できない。恐ろしいが手を触れたくなる魔力。


7.「Back Door Man」
これはブルースの名コンポーザーであるWillie Dixonのナンバーをカバーした曲。ウィリーのシカゴブルースらしい洗練された曲を、わざとジムがぶっきらぼうに歌うかのようにして彼なりのブルースらしさを意識しているのが微笑ましい。アルバムを通して初めてオルガンよりギターの方が目立っている(ような気がする)ナンバー。


8.「I Looked At You(君を見つめて)」
ポップなナンバー。60年代半ばのサイケデリックとポップスのバランス感が良い塩梅なオールディーズのように聴きやすい一曲。


9.「End Of The Night」
暗く不可思議なイントロから始まるナンバー。ドアーズお得意の不思議な世界がじわりじわりと聞き手を揺さぶる。不安ではなく、漫然とした空洞が広がっていくのを感じるナンバーである。


10.「Take It As It Comes(チャンスは掴め)」
これまた、シンプルだが聴きやすいナンバー。オルガンの働きは個人的にこの曲にMVPをあげたい、ジムの誠実な歌い方が最も上手く表れているのもこれだろう。


11.「The End」
タイトル通りである。このアルバムのトリを務めるこのナンバーは映画「地獄の黙示録」にも使用されたので、映画を観た方はあのシーンか!と膝を打つかもしれないが、是非映像抜きに曲単体をフルサイズで聴いて頂きたい。
曲自体は起伏のあまりない、落ち着いた展開が続くが、不穏な伏線が散らばり、不安が聞き手に高まる。クライマックス…ジムの咆哮が全てを破壊し、再構築してしまう。生きることの業、それを否定できない弱さを抱えながらずっと人は未来永劫生きねばならない苦痛を、ジムは子供のように泣き叫びながらRawな感情を最後の最後にぶつける。
インテリぶったって俺らはみんなこうなんだ、下卑で薄汚い猿のマザーファッカーなんだと悲しい目で彼は叫ぶ。確かにそうかもしれない。だが、だからこそ生きねばならない。
The End。人はいつか終わるのだから…


このレビューを書くにあたり、久々に通しでアルバムを聴いてみたのだが、とにかく完成度の高さとジムの歌のパワーに圧倒された。素晴らしい作品は本当にいつ聴いても良いものだと、改めて再確認した。
今年は「ハートに火をつけて」発売50周年の記念すべき年である。未聴の方は是非一聴して頂きたい。それがこのレビューを書くにあたっての筆者唯一の願いである。


(文:ジョルノ・ジャズ・卓也)


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