SUPERCARの最高傑作はFuturamaだ!(異論は認めない)
みんなはSUPERCARが好きだろうか?
もちろんバンドの方だ。ここは音楽の話をする場所なんだから…。まあ君がいいならランボルギーニ・ミウラの希少価値についてやフェラーリ・テスタロッサの曲線美のエロさについて語ってもいいんだけど。うるせえ音楽の話をしろ?
超絶どうでもいい余談はさておき、SUPERCARというバンドの話。
知らない人のために簡単にプロフィールを紹介しよう。
SUPERCARは1997年にデビューし2005年に解散した日本のロックバンド。同時期にデビューしたNUMBER GIRL、くるりとともに「'97世代」と呼ばれ人気を博した。
メンバーは
・中村弘二(ナカコー):ボーカル、ギター、シンセ、作曲
・石渡淳治(ジュンジ):ギター、作詞
・古川美季(ミキ):ベース、ボーカル
・田沢公大(コウダイ):ドラム
の4人。ナカコ―が作曲・ジュンジが作詞と、完全に分業されているのが彼らの特徴と言える。
解散後、ナカコーはソロ活動を精力的に行い、ミキとLAMAというバンドも組んでいる。ミキもソロアーティストとして作品を発表。ジュンジはチャットモンチーやねごとなどのサウンドプロデュース、文筆家、そして幅広いアーティストへの作詞提供を行い、今では関ジャムに何度も呼ばれるほどの超売れっ子作詞家となった。コウダイもソロで活動をしていたがWikipediaによれば現在は一般職に就いているらしい。
SUPERCARの音楽性はアルバムごとに違う。
1stの『スリーアウトチェンジ』はシューゲイザーの文脈で語られることが多く、「cream soda」「Lucky」「PLANET」など代表曲が満載の大名盤。2nd『JUMP UP』はタイトル通りサウンド面での変化/飛躍が見られ、シューゲイザーからは離れエレクトロニカ的な要素が見え隠れする。3rd『Futurama』でその傾向は一層強くなりポストロック的なサウンドを追求し、4th『HIGHVISION』ではほぼエレクトロニカ/テクノサウンドに。5th『ANSWER』ではややギターロックに回帰するも全体的に音作りがミニマル志向となる。こうして凝り固まったサウンドに行き着いたSUPERCARはそのまま解散してしまった。
さて、ざっと説明したところで、そろそろ本題に入ろう。
今回は彼らの作品群の中でも過渡期と言えるアルバム『Futurama』(読み方は「フューチュラマ」)について語りたい。ジャケットはこちら。
・過渡期ゆえの「ロック」と「エレクトロニカ」の混ざり方が完璧
・全16曲・75分の大作でありながら全体の流れが完璧
・曲ごとの歌詞の「メッセージ性」と「崩壊具合」のバランスが完璧
とまあ、ダメな所が一切思いつかない「完璧」で埋め尽くされたお化けアルバムである訳で…。
これは語らないでどうする? ということで、この場を借りてFuturamaの全曲解説といこうじゃないか。解説というほど大それたものじゃないしすでにたくさんの人がブログで書いているけど自分の言葉で語らせてくれ!
歌詞カードが手元にある人は是非音源を聴きながらこの記事と並行して見てほしい。面倒ならいいけど。
それでは早速!
1. Changes
冒頭を飾るのはインスト曲。いきなり打ち込みとギターロックを掛け合わせた新機軸からスタートし前作からの進化を印象付ける。タイトル通りこれから何かが変わっていくような、それもポジティブな変化を期待させるようなワクワクに満ちている音。まさに「チェチェチェ changes さぁ、変わってく」といった感じ。(先生、それは曲が違います)
2. PLAYSTAR VISTA
どこかと交信しているような音から始まり、近未来的な印象を与える一曲。イントロのギター、いいよね。そしていきなり意味の分からない歌詞、いいよね。 "赤の3倍ヘヴィー" とか "蒼も3倍ハッピー" とか何のことだよ。色に形容詞や感情をつけないで。どうやったらこんな歌詞が出てくるんだジュンジ。(好き)
この曲の最大の特徴はサビがはっきりしないことだと思う。おそらくサビだろうと思われる部分には歌詞がなくヘヴィーなギターが唸るだけ。ああ3倍ヘヴィーってこれのことか!(違う)
そんで "崇められた未来 ノアの最終ヘブン それがプレイスターヴィスタ" だそうだ。結局どういうことだよ。
3. Baby Once More
歌詞カードには "ベイビー、今度はよりかからないで愛そう" と書かれているくせに実際はずっとベビベビワンスモア言ってる変態曲。どんだけ「もう一度」を切望してんだよ。
ギターはずっと同じリフが繰り返されるミニマルさが何ともクセになるし、後期の作風を何となく予感させる。
しかし "よりかからないで" という歌詞、「今度は前よりはかからない」という意味なのか単に「寄りかからない」という意味なのか…。どちらともとれるのが憎いんだが。
4. White Surf style 5.
ラストライブの一発目も飾った彼らの代表曲の一つ。ツインドラムにバリバリのシューゲイザーサウンドが乗っていてめちゃくちゃかっこいい。歌詞は相変わらずよく分からないけど聴いていると何だか風に乗ってどこまでも飛んで行けてしまうような気がする。
ちなみにアルバム収録バージョンであるためアウトロが追加されて次曲へシームレスで繋がるようになっている。このアウトロ好き。
それにしても「style 5.」って何が5なんだろうね。
5. Star Fall
また何が言いたいのか正直よく分からない歌詞…。SUPERCARの歌詞は本当にこの辺りから色々なものを削ぎ落としにかかってるからものによってはめちゃくちゃ行間が多い気がする。ここまでくると歌詞の意味をあれこれ考えるよりは音に乗った響きの良さとかを直感的に楽しむ方が正解なんじゃないかと思えてくる。
それにしても終始繰り返される「ちょわぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」っていう音がクセになるよね。(伝われ)(これ何の音なんだよ)
6. Flava
これまた前曲からシームレスで始まる曲。ドリーミーなサウンドの後ろで優しく奏でられるアコギの音が良い。ナカコーの気だるい「願ったっツェ~」もめちゃくちゃ良い。
何となく別れを想起させる歌詞が切ないのに不思議と安らぎを覚える、そんな一曲。
7. SHIBUYA Morning
またもやシームレスで始まるインスト曲。そして急に渋谷。今までの曲の舞台は全部渋谷だったのか? そして渋谷の朝ってこんな感じなのか? 教えて渋谷に住んでる人!
それはさておき「Star Fall」→「Flava」と夜っぽい曲が続いた後に朝を迎えたようなこの演出。晴れやか。流れが完璧すぎる。
8. Easy Way Out
またまたシームレスで始まる割とストレートなロックナンバー。(舞台はまだ渋谷なんだろうか?)
歌詞の内容はいい意味での開き直り。個人的には "実際、「正しい」を前に間違いをわかって選ぶのさ" というフレーズにやられた。そんぐらいとがっていこうぜ、間違って全部なくなってもいい、んなもん若かったせいで片づけりゃいいだろ…とまあ若者の背中をグッと押すようなポジティブさにスカッとする。
朝の光を浴びて街に繰り出すような軽快なイメージ。
9. Everybody On News
例によってシームレス。歌詞カードには "ミンナガニュースデ ニュースガミンナ" と書かれてるけどそうは歌われない憎さ。なんかデジャヴだな。
ミンナニュースだということらしいです。言いたいことは何となく分かるような分からないような…。何だろ、流れ的に朝のニュースかな? めざま〇テレビかな? (ラッキーアイテムは模造紙!)
10. Karma
Futuramaはここからの流れが神がかってる。打ち込みとギターが絶妙に折り重なる中でナカコーが「カ~ルマ~」とエコーのかかったボーカルで歌う。はてさてどんなカルマが歌われるのかと思えば、
"やさしさにいい加減でいて
むなしさにいい加減でいて
俺はこう言い続けるんだ
「何をどうも出来なくたって胸に愛とあつい想いを」
君にそう言い続けるんだ
俺はそう、いい加減なんだ"
だなんて。それを「カルマ」と言い放つすごさ…。
11. FAIRWAY
この曲が始まる瞬間のためにこのアルバムは存在すると言っていい。Karmaのアウトロからグーッとリスナーのテンションを上げてそのままシームレスで始まるイントロのギターが鳴るその瞬間にこの世のすべてが分かった気持ちになる。すべてだ。すべて。
歌詞もずば抜けて良い。特に好きなのはミキの "名曲から今日も希望を叶えようってイタイくらい届いてるわ!" というコーラスの部分。安心を買ってダレた毎日からサヨナラグッバイしようぜ!というものすごいパワーを感じる。と同時に、これはSUPERCARが過去の自分たちの「青春」と決別するための曲でもあるんじゃないかと思ったり。
なお、シングルバージョン(ベスト盤『A』収録のRadio Edit)とは別に、新たに録り直されたものが収録されている。断然アルバムバージョン派。
とにかく個人的にSUPERCARで一番好きな曲。
12. ReSTARTER
さあまたシームレスだ。 "リスタートして、運命を撃て!!!!" とFAIRWAYの勢いをそのままにネクストステージへと突き進む。が…。
13. A.O.S.A.
リスタートしたばっかりなのに "もう、ひとりでやれる全ては終わった" と宣言。
早えよ!!!!!!!!!!
イントロもReSTARTERのアウトロをスパーン!!!とドラムで断ち切って始まる。挙句の果てに未来をいくつも欲しがり「青さ!青さ!青さ!青さ!」と叫ぶクズっぷり。フリッパーズ・ギターの亜種ですか? ていうか青春とはもう決別したんじゃなかったの…?
という訳で、個人的にはKarmaからここまでの繋がり方を今作のハイライトとして挙げたい。
14. New Young City
ここからはもう落ちるだけ。過去の後悔ばかりが心を支配し、最終的に
"たぶん、もういい手はない
ない
ハハハハハ
ない"
と吐き捨てる。まあよくここまで一気にネガティブになれたもんだ…。ハハハハハじゃないんだよ。
ストリングスも入ってサウンド的にもめちゃくちゃ切ない。そんで曲名がNew Young Cityって…。嫌だよこんな街…。
15. Blue Subrhyme
この曲だけドラムのコウダイ作曲。主人公は全ての希望を失い、ついに病んで薬でもやって頭がバグったのか、全く歌詞の意味が分からなくて怖い。ジェーンって誰やねん。しかも etc.とか言って他にもいるのかよ。 "灰色クライムフルニューウェーヴ + MEEeEEEE." って何だよ。怖えよ!!!!!
16. I'm Nothing
ついにナッシングときた。無事に落ちる所まで落ちたんだな。それでも不思議と気持ちは穏やかで、温かみのあるギターの音に乗せて無の境地(?)が歌われる。
"古い夜のあてをたどっていく" ものの "余韻も酔いに溶けてストップ" するし "永遠の遊泳もストップ" してしまう。
でも "イメージ変わるまでを無でいた" "ため息枯れるまでを無でいた" というように、「無」だったのはすでに過去形として語られている。かすかに次のビジョンが見えていることを匂わせる歌詞が絶望の淵から救い上げてくれるような、そんな気持ちにさせてアルバムは終了する。
…ということで、自分なりに全曲を振り返ってみた訳だが。
・過渡期ゆえの「ロック」と「エレクトロニカ」の混ざり方が完璧
・全16曲・75分の大作でありながら全体の流れが完璧
・曲ごとの歌詞の「メッセージ性」と「崩壊具合」のバランスが完璧
という3点について、少しでも実感してもらえただろうか。
SUPERCARがエレクトロニカ/テクノサウンドに接近し今作ではポストロック的な志向に転じた理由としては、やはり自分たちの今までのギターロックサウンドにどこか「限界」を感じていたのではないだろうかと思う。
彼らにはデビュー前からすでに何百という曲のストックがあり、1st『スリーアウトチェンジ』にはそこから選び抜かれた曲たちが収められている。つまり、ギターロックに関してはある意味もう「やりつくした感」があった。じゃあそこから抜け出すためには…?と考えた時に、エレクトロニカと自分たちの音楽の親和性に気づいたのではないか、と私は勝手に考えている。
ちなみにアルバムの帯には「あらゆるロック(音楽)のフォーマットをのみ込んだ、光のスピードで進化を遂げた スーパーカーの今がここに。」というコメントが。カッコ書きがちょっとダサいけど当時の彼らをシンプルに言い当てたコメントと言えるのでは…。
歌詞に関しては散々触れたように、しっかりとメッセージがある曲と、何が言いたいのかよく分からないテキトーな言葉の羅列のような曲と、まさに両極端を行き来している。
これを一つのアルバムに詰め込んで統一感(ある種のストーリー性)を出し、全体の流れも全く違和感なく聴かせてしまう彼らの手腕には脱帽せざるを得ない。
最後にアルバムタイトルについて触れておこう。
『Futurama』という言葉は「Future(未来)」と「Panorama(全景)」を掛け合わせた造語。
まるでパノラマ写真のように全方位に広がる未来に希望を抱いたり失望したり、それが限りなくプラマイゼロでも、それでも何とかプラスにほんの少し針が傾いているような、そんな危うさの中で生きている私たちを精一杯肯定してくれるような…。
『Futurama』はそんな不思議なあたたかさに満ちたSUPERCARの最高傑作と言っていいだろう。異論は認めない!!!!!
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