ブルースの行方。僕らの行方。

アーティスト:Cream
タイトル:Wheels Of Fire(邦題:クリームの素晴らしき世界)


世の中にはスリーピースバンドがたくさんある。
洋楽ならThe PoliceやNirvana。邦楽ならBlankey Jet CityやHi-Standardあたりが有名どころだろうか…後はレミオロメンやらWANIMAやら…もうめちゃくちゃいるのだが、そんな数あるスリーピースロックバンドの元祖的存在であると同時に、今なお最強の名を欲しいがままにしているのがCreamであり、そのCreamのパワーをとんでもないテンションで録音したのが今回紹介する「Wheels Of Fire」である。

メンバーはGt.エリック・クラプトン、Ba.ジャック・ブルース、Dr.ジンジャー・ベイカーの三人。メンバー全員がバンドを組んだ時点で既に業界や音楽通の間では名が知られており、彼らが世界初のスーパーバンドだというのが定説となっている。

クラプトンは今でこそ渋いブルース親父だが、この頃はイケイケでクレイジーな若手ギタリストであり、保守なんて言葉とは真逆にいた。また、ジャック・ブルースはアレクシス・コーナー、ジョン・メイオールという一流のブルースマンの下で演奏をし、実力を積んで有名ベースプレイヤーとなっていたし、ジンジャー・ベイカーは50年代の終わりからジャズバンドで活躍し、ハイレベルなドラミングテクニックを身につけていた。
つまり、誰一人として素人やハンパもんがいないバンドなのだ。

勿論、ファンが向ける期待も高かった。そんな状況下でCreamは快進撃を続ける。
ハイレベルな演奏でブルースの見事なカバーを披露した初期。当時流行りのサイケデリックサウンドとハードロックの雛形となるヘヴィなサウンドを融合させた中期。そして、自らの変遷を全て詰め込んだ傑作…「Wheels Of Fire」を発表する。

アルバムは二枚組で構成されており、一枚目がスタジオ録音。二枚目がライブ録音となっているのだが、ぶっちゃけあんまりそこを気にして聴く必要はない。だって、こいつらスタジオだろうがライブだろうがガンガンにアドリブやら長尺のソロをぶちかましてるんだもの…。

OPナンバーはド派手なドラムの音から始まる「White Room」。スタジオ録音なのにメンバーがアドリブをかましたり、クラプトンがガンガンにワウを効かせまくったギタープレイを披露し、テンションの高さが伺える。
その後は民族テイストが気持ち良い「Passing the time」や独自の世界観を持つクラシカルでブルージーな不思議なナンバーの「Pressed Rat And Warthog」などを経て、最初のハイライトである「Born Under A Bad Sign」を迎える。
この曲はアルバート・キングの演奏などで有名な定番のブルース曲なのだが、ピーキーで緊張感がある曲群の中でこのスタンダードなブルースナンバーが逆に不穏な雰囲気を持ち込むと共に、彼らのルーツをリスナーに再確認させる役割を果たしている。

二枚組のライブ盤ではさらにギアを上げた激しいフィーリングがぶつかり合う。
クラプトンが敬愛するロバート・ジョンソンのナンバーである「Crossroads」ではキレッキレのギタープレイが炸裂し、クラプトンのヴォーカルも聴ける。アルバムの中でも非常に優れた演奏とアレンジが冴えており、彼らのロバートに対する思い入れも強く感じる。
そして、最重要曲の「Spoonful」へと突入する。
この「Spoonful」なのだがブルース曼荼羅ともいうべき精神世界に没入していくかのような独自の世界観の中でアドリブとテクニックの激しい応酬が行われ、まるでメンバーが音で戦争をしてるかのような錯覚を引き起こすとんでもないナンバーだ。是非聴いて欲しい。

結局、Creamはこのアルバムを発表した後すぐに解散を発表してしまう。
ブルースとベイカーの不仲が限界に達したことや、アドリブや音で長時間の喧嘩するようなスタイルにメンバーが疲れ切った等様々な理由が推測されているが、結局はこのアルバムでCreamは自分たちのスタイルとやるべきことを完全に達成してしまい、目的がなくなったというのが解散の理由のような気がする。それほど、「Wheels Of Fire」というアルバムは非の打ち所がない、彼らの思想とテクニックが完璧に聴けるアルバムだ。
ブルースロックを初めて聴く人やクラプトンのソロ以前の仕事に興味がある全ての人にも一押しである。

是非、そのタールのような粘っこい、聴き手を絡めて離れなくしてしまう、Creamサウンドにこのアルバムで浸って欲しい。





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