のび太(高学歴)とエモえもん

アーティスト:Weezer
タイトル:「self title(通称ブルーアルバム)」

エモ〜い!
大人気サブカルクソ漫画「ポプテピピック」でもネタにされるほど、「エモ」という言葉は使い勝手の良い言葉だ(正確な発音はイーモォらしいが…昔、ALTの先生に調子こいてアイラブエモバンズ!と話してたら、冷静に訂正された)。
エモーショナルかつポップで青春の甘酸っぱい感情を呼び起こすようなサウンド…これが大まかなエモの定義だろうか?

今や掃いて捨てるほどいるエモバンドだが、真のエモみを感じるものは数少ない。そんな中、ついついエモ帝国軍の御大将であWeezerの1stをレビューしたくなったのである。

Weezerの1stの素晴らしいところは、明るいが能天気ではなく、湿っぽさはあるが暗くはない。この点にあると僕は考えている。
LAメタルの馬鹿騒ぎの後に待っていたのは暗いグランジロックだった。
90年代前半。クリントン政権下のアメリカは好景気がエンタメ業界にも波及し、映画の興行記録やCD売り上げの記録を毎月のように更新していた。そんな傍目にはハッピーに思えるアメリカの若者たちが歌ったのは、「どうしようもならない諦観」や「俺はクズだ」といった暗い感情のストレートな吐露だった。
ご存じの通り、Nirvanaのフロントマンであるカート・コバーンの自殺を契機にグランジは失速。Green Day等の第一次ポップパンク勢が台頭し、OasisやBlurのブリット・ポップ狂騒時代に突入する。

では、その時代にデビューしたWeezerのサウンドはというと、「新しいけど渋いとこからパクってる」というキッズには受け、玄人はニヤリとさせる作りだった。
エルヴィス・コステロやニック・ロウといった捻くれたポップマエストロの音を彷彿とさせながらも、メタルやハードコア以降のヘヴィな一面の見せ方も心得ている…要するにバランス感がめちゃくちゃ良いのだ。
そもそも、フロントマンのリヴァース・クオモが元々はGuns'N'Roses等のLAメタルの大ファンで、Sonic YouthやDinosaur Jr.でオルタナの薫陶を受け、今のスタイルを確立したのは有名な話だ。
端から端への極端な嗜好の移動がメタル譲りのキャッチーさとオルタナ譲りのノイジーな爆発力を生んだのは間違いない。
そしてルックス。「普通の兄ちゃんやんけ!ナヨっとしたナードやん!」とツッコミたくなる、良くも悪くも「話しかけてもヴァイオンスでデンジャラスな目には合わなさそう」な見た目…。そんな「こいつらホンマにロックスターかいな兄ちゃんたち」がナイーブにシャウトするのだ。

グランジに乗り遅れたキッズ。ポップパンクやメロコアに馴染めないナード…。奴らはリヴァースが歌う姿を見て、「自分もなれる。自分もこうなりたい!」、そう強く思った。ロックスターを目指す理由が「憧れ」から「共感」へのパラダイムシフトはThe Smithsから始まりWeezerで完結した。


内容に関してもう少し詳しく突っ込んでみよう。全体的に曲のリリックはオタク青年の内省的で淡い憧れを投影した内容が多い。
例えば「Undone」は誰かが自分を誘ってくれてパーティに連れ出してくれることを望み、「Holiday」では女の子と喧騒を離れどこか遠い場所へ行きたいと呟く(セックスなどの性的な含みもない)。
そしてキラーチューンである「Buddy Holly」では、弱虫な僕だけど君を守ってやる!とのび太がしずかちゃんに見せるような振り絞った男気を歌っているのだ。
内省的だが、後ろ向きじゃない。女の子の事を歌ってても結局童貞か!(CV.トシ)となるほど性的な匂わせ方を避けている。
時代が過激でエクストリームな表現を要求する中でグッドメロディなロックバンドであることは非常に良心となったことだろう。

君はロックスターにはなれないかもしれない。だが、彼らの1stを聴いてからでもその夢を諦めるのは遅くない。
勝者を貶さず、敗者に寄り添う。そんな、クラスにいたような根暗だけど良いやつがこのアルバムの本質なのだから、きっと君も何かを感じとるはずだ。

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