土着性溢れる狂気の芸術~J・A・シーザー「身毒丸(しんとくまる)」(1978)
音楽紹介の前に
まず、J・A・シーザーという方のビジュアルがまあまあ強烈なので載せるね。改めて紹介するときは今現在のお姿を載せます。
あら凄い、というわけでいきなり本題に入ってもいいんだけど、この人を語るには避けて通れない人物が居るのよね、というわけでまずそちらから入ろう・・・
・・・突然だが、寺山修司という人間を知っているだろうか。と言われても現代の、しかも若者においては知らない人が大半だと思う。この話は音楽論ではないのだが、僕が人生において多大な影響を受けた人物であり、この後紹介する音楽には重要な存在なので少しながら紹介させて頂く。
寺山修司(1935-1983)は劇作家、歌人、文筆家、脚本家、作詞家、劇団主宰、馬主、映画監督・・・などジャンル横断的な活動で知られる時代の寵児だった。「田園に死す」「草迷宮」などはとってもいい映画だし、カルメン・マキ「時には母のない子のように」(1969)、尾藤(びとう)イサオ「あしたのジョー」(1970)とか作詞もいいよ、もともと文筆の人だしね(個人の感想です)。
「この世でいちばん遠い場所は 自分自身のこころである」
「お芝居と同じように 人生にも上手な人と下手な人がいるのよ」
・寺山修司の写真 (結構いい人っぽく見える)
(関係ないがタモリはこの人の物真似が上手い)
そして特に寺山修司を語る上で外せないのは、彼がリーダーとなって牽引した劇団、「演劇実験室◎天井桟敷」の存在だ。寺山は状況劇場の唐十郎、早稲田小劇場の鈴木忠志、黒テントの佐藤信と並び、「アングラ四天王」と呼ばれ60年代後半から70年半ばにかけて、小劇場ブームを巻き起こした。そして「天井桟敷」のスタイルは「見世物の復権」「演劇は社会科学を挑発する」を謳っていたこともあり、何かと世間を挑発するものが多かった。
(曜日に到るまでちゃんと資料として残ってるのが驚きでもある・・・)
そんな天井桟敷は寺山修司の死後、求心力を失い解散したのだが、1人の男にその精神は受け継がれ、その男が「演劇実験室◎万有引力」を立ち上げることで、劇団員が多くそちらに移り現在に至る。
その寺山修司世界における最重要人物であり現在は「演劇実験室◎万有引力」の主宰でもある男がJ・A・シーザー(ジュリアス・アーネスト・シーザー、本名は寺原孝明)である。(はい、ここからが音楽の話!長かったね・・・)
J・A・シーザーについて
改めてこんな人です、今も現役なので今の写真を載せましょう。
J・A・シーザーは「天井桟敷」において音楽を担当していたのだが、彼の作る音楽が非常に不思議なものであったのだが、今回はその中の1つ、
「身毒丸(しんとくまる)」
を紹介しよう(そもそも劇伴音楽が主なフィールドという性質上なのかあまり音源をリリースしていないのだ・・・)。
Q.そもそも身毒丸とは?
A.「俊徳丸伝説」(高安長者伝説)で語られる物語が原点であり、伝説をもとに生まれた演目が謡曲、歌舞伎、人形浄瑠璃などに存在している。
その「俊徳丸伝説」を、折口信夫(おりぐちしのぶ)が仏教的・教義的な要素を取り払って小説『身毒丸』を発表したことが発端(大正6年発表)。
その後、時は流れ1978年、寺山修司率いる「演劇実験室◎天井桟敷」が「身毒丸」を舞台として発表したのが「身毒丸」という話が舞台化していった始まりである。ちなみに今回触れている身毒丸の話も劇が行われた年を書いており音源のリリース年ではない。
身毒丸
※この画像は2015年に発売されたパーフェクトボックスのものである
曲目
- 慈悲心鳥
- 撫子
- かくし髪切虫
- 家族合わせ
- 地獄のオルフェ
- 藁人形の呪い
- 復讐鬼
- 阿梨樹(あるじゃか)墜つ
初めに今回の作品の基礎情報をあまり知らない方に向けて、「初演の『身毒丸』がどういう作品か?」と言う事を簡単にまとめる。
- 舞台「身毒丸」
寺山修司の劇団「演劇実験室◎天井桟敷」によって1978年に上演された寺山修司原作、J・A・シーザー作曲による音楽劇である。
舞台の内容は中世日本の語り物芸能である説教節を主軸に、寺山修司お得意の物語テーマである母と子の愛憎、天井桟敷の初期テーマである見世物小屋の復権などの要素を乗せて組み合わせた作品である。
その音楽世界は箏や琵琶の弾き語りのような和楽器による日本的アプローチとバイオリンやチューバ、フルート、コーラス隊などを含めた約二十人の大編成ロックバンドによる演奏が融合した、極めて特異な物となっている。
そのメンバーの編成を細かく見ると楽器隊だけで
- 三十弦琴
- 琵琶
- ギター
- ベース
- ドラム
- フルート
- チューバ
- ピアノ
- シンセサイザー
- バイオリン×2
- 和太鼓×2
- オルガン
- パーカッション
である。
そして歌い手も
- テノール×3
- アルト×2
- ソプラノ×4
- ボーイソプラノ
という人数、楽器を揃えているため音がとにかく分厚く、かなり派手なのだ。
音楽に関しては、J・A・シーザーが基本とするプログレッシブロックやドゥームメタル的な音楽のなかにどこか土着的な日本の匂いが漂っている。寺山修司の影響もあるのだろう。
音楽面でも内容を細かく見ると、琵琶の弾き語り、琴、講談風の語り、御詠歌・民謡・童謡など、日本の伝統的なメロディ、暴力的なロック、鬼気迫る混声合唱などが渾然一体となったカオスというのがふさわしい世界である。
歌の部分はオペラのあの声で般若心経とか文語体日本語を歌いまくっているので余計に凄い。
そして、子守唄や童謡、日本昔ばなしにあるような恐怖や不気味さをそのまま強引に海外のロックと融合させてしまったかのような音楽は今聞いても超個性的である。
「俊徳丸」を基に、鬼子母神伝説を絡め、母への過剰な愛と憎しみをどこまでも激しく、血なまぐさく実体化した作品にふさわしい音源である。
本作品が劇の記録盤としてではなく、純粋に音楽アルバムとして企画・録音・発売されていたら、Flower Travellin' Band「SATORI」と同様、間違いなく日本が世界に誇るロック・アルバムになっていたであろうと強く思う。
僕はこの方を当時のプログレッシブ・ロックアーティストの頂点に存在していたと思っている。
それほどまでに土着的、日本的であり、自国の特色を外来の音楽とここまでハイレベルに融合させていたのは、世界中どこを探しても今現在でもなお、J・A・シーザーだけだろう。
最後に
寺山修司関連は調べるとキリがないが、彼の著作「書を捨てよ、町へ出よう」「家出のすすめ」「幸福論」「ポケットに名言を」はとてもいい作品なのでそこから寺山修司を知るのもいいだろう。
J・A・シーザーに関してはCDやレコードという媒体で発売されている音源が少ないのでたどるのが難しいが、「国境巡礼歌」というシンボリックな作品があるのでそちらもおすすめ。
あとあんまり大声で言えないけど動画サイトとかにあったりするので気が向いたらぜひ・・・。
なおTVアニメ「少女革命ウテナ」の劇伴はJ・A・シーザーの担当であるということを最後に付け加えておく。なぜなら監督の幾原邦彦さんが寺山修司やJ・A・シーザーのファンだから。絶対運命黙示録とか凄くいいぞ。「輪るピングドラム」もいい作品だから見てね。
身毒丸 -PERFECT BOX- (限定盤) 予告編
演劇実験室◎万有引力 「身毒丸」 予告編
観劇しました。こんな感じの世界です(ほぼメイキングだけど)。
天地創造すなわち光
この曲はアニメ「少女革命ウテナ」の曲なんだけどひたすらに激烈な歌詞で本当によく聞く。
今回は自分のルーツの1つであるアングラ演劇の世界を紐解いてみたのですが、いつの日かもっとガッツリ「アングラ」と形容されるものに触れた記事を書きたいですね。
(文:アキオシロートマグル)
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