モグワイ新譜レビュー Every Country's Sun
モグワイの新作「Every Country's Sun」がリリースされた(国内盤は9/1リリース)。ライブで新譜からの曲を披露するなどして、期待されていたと思われる。自分の感想は一言。
見事。
これは昔の作品が好きだったファン、最近の作品が好きなファン、どちらの層にも響くだろう。
正直、自分はこのアルバムは失敗するのではないかと疑っていた。というのは、新曲として公式に発表された曲「Party in the dark」の存在があったからだ。PVとともに発表された新曲「Coolverine(新譜のTrack #1に収録されている)」はモグワイの一つの側面である落ち着きをもった広がっていくような曲で、かなり完成度が高く満足していた。ところが次に公表された「Party in the dark(こちらは新譜のTrack#2である)」は打って変わって重いベースの響く、歌ありのかなり聞きやすい曲。この全くといっていいほどにタイプの違う曲が一枚の中に両方存在していて、バランスのある仕上がりになるのか不安だった。
そんな自分の希望だったのはこの作品でモグワイと再びタッグを組んだデイヴ・フリッドマンの存在である。再び、というのも彼は名盤と名高いモグワイの2ndアルバム「Come On Die Young」、3rdアルバム「Rock Action」のプロデュースを担った人物だ。どちらの作品も自分は気に入っているので、「なんとかこの2枚のようになってほしい」という望みを持って新譜を購入した。
結果は先ほど一言で述べた通りだ。心配していた Track#2「Party in the dark 」もこの作品の中では浮くことなく調和している。
具体的に内容に触れていこう。トラックリストは以下の通りだ。
#1 Coolverine
#2 Party in the dark
#3 Brain sweeties
#4 Crossing the road material
#5 aka 47
#6 20 Size
#7 1000 Foot face
#8 Don't believe the fife
#9 Battered at a scramble
#10 Old poisons
#11 Every Country's Sun
#12 Fight for work (国内盤ボーナストラック)
全体の印象としては「Rock Action」+「Hardcore ~」+「Rave Tapes」という感じだ。前作である「Rave Tapes」は彼らの作品中ではかなり鍵盤楽器を使用していて、その面は引き継がれている。しかし、今回は「Rave Tapes」のように美しい曲ばかりではなく、曲ごとの音に重さのある(と自分は感じている)「Hardcore~」に近い。だが、2枚の単なる合体ではない。この作品は「Rock Action」で多くの人を魅了したようなメランコリックな響きが満ちている。以下、曲ごとに軽く触れていく。
#1「Coolverine」:冷たい響きに終始包み込まれる。この曲はいつものモグワイらしい曲で、安心感を与えてくれる。
#2「Party in the dark」:こちらは最近のモグワイ的なナンバー。重たいベースとさわやかな音色と歌が心地よい。このアルバムの挨拶はこの冒頭の2曲で終わる。以降は聞く者を置き去りにするような曲が続く。そのためこの曲は作品全体のバランスをとるうえではこの位置にあるのがちょうどいい。
#3「Brain sweeties」:鍵盤をうまく取り入れて仄暗く盛り上がっていくが、ここでは轟音はなく、ゆっくりと終わる。これが第二の始まりだと告げるような曲になっている。
#4「Crossing the road material」:前曲の流れを引き継ぐようにゆっくりと盛り上がり、最高潮で待ちに待った歪んだギターの音が割って入る。恍惚としているといつのまにかギターの美しい音色とともに終わる。こういう曲を待っていたファンは多いと思う。
#5「aka 47」:エレクトロニカのような曲。しかしやはり全体的に重く暗い。その中でキーボードと共にギターが光る。
#6「20 Size」:打って変わっていきなり鋭いギターの音から始まるが、いったん落ち着き、そしてノイジーなギターに覆いつくされる。これも初期からのファンにはたまらないだろう。
#7「1000 foot face」:ここで再び歌モノの曲。といってもシューゲイザーのようにかなりエフェクトのかかったボーカルで、メロディも優しい。サイケな気分にさせてくれる。
#8「Don't believe the fife」:このアルバムの真骨頂はここからだと自分は感じている。不穏なドラムとキーボードによって、アルバム中で最も暗く、不吉な音で始まる。そして急に盛り上がり、急にギターの轟音が割り込む。しかもすごくノイジーなのにキーボードの音と溶け合うかのような音だ。ギターが消え、キーボードが消え、また不穏な静けさへと戻っていく。
#9「Battered at a scramble」:この曲には驚かされた。いきなりかなり歪んだベースから曲が始まる。#8がゆっくり終わったところへ隙を与えないような始まりで、ギターの美しい音がベースを陰から支える。ところがここでも急に転調してギターの轟音が炸裂する。盛り上がっていくというよりはほとんど直球で音をぶつけられている感覚に近い。
#10「Old poisons」:そしてこの曲も直球である。今度は全編が轟音ギター。このアルバムの#8、#9、#10はほぼメドレーである。メランコリックというよりとにかく暗く、鋭く、暴力的に耳に襲い掛かってくるので、ぜひこの流れに溺れてほしい。
#11「Every country's sun」:これも#8からの流れを汲んでいる曲ともいえるが、どちらかというとコントロールされた曲という印象がある。冒頭の#1「Coolverine」と似ているようで対をなす曲だ。輸入盤ではここでアルバムが終わる。
#12「Fight for work」:これは国内盤ボーナストラックである。自分は元来ボーナストラックというものが嫌いな人間だが、これは自分的にはアリだ。モグワイの曲だとは信じられないような優しいピアノの音色で曲が始まる。しかし徐々に「あ、モグワイ節だ」と感じるようなメランコリックなバンドサウンドに変わっていき、終わる。と思いきや、これまでで最も切れ味のある悲しいギターが曲を切り裂さいて、本当に終わる。#11で終わる輸入盤では突き放されたような悲しさでアルバムを聞き終える。#12のある国内盤は若干アルバムの流れとは異なるが、聞き終えた時に優しさすら感じられるほど感傷的になれる。どちらで終わっても素晴らしいので、両方買ってもいいかもしれない。
レビューは以上である。
すごいぞ。これ。
(文:ジュン)
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