欲求 ~キル・エム・オール

 「破壊的な音楽を聴きたい」そんな感情は人生のある時期にありがちじゃないだろうか。自分の場合、それは十代の中頃だった。

 その時期の自分を完璧に捉えたアルバムが、メタリカの1stアルバム「キル・エム・オール」だった。当時好きだったバンドがこのアルバムの収録曲「モーターブレス」をカバーしていたことが、このアルバムとの出会いだった。


 このアルバムのリリースは1983年の夏。同年にデフレパードの「炎のターゲット」が先にリリースされ、前年にはアイアンメイデンの「魔力の刻印」がリリースされた。NWOBHM に非常に勢力があった時期である。そこへメタリカが殴り込みをかけた。イギリス出身の先輩メタルバンド以上のスピードかつ、さらに尖った音で。


 #1「ヒット・ザ・ライト」の切り裂くようなイントロからアルバムは始まる。転調の多い#2「フォー・ホースメン」に繋がり、ただ勢いだけではない面を聞かせてくれる。再び疾走感のある#3「モーターブレス」、ノリやすいリフをもつ#4「ジャンプ・イン・ザ・ファイア」と続き、聞く者を翻弄する。名ベーシスト、故クリフ・バートンによるベースソロ曲#5「プリング・ティース」は初めて聞いた時かなり驚かされた。「一体これは何が鳴っているんだ?」と。この曲はアルバムの中では異色の曲だが、聞きこむほど複雑かつ超攻撃的な音楽であることに気づく。その後は転じて#6「ウィップラッシュ」、#7「ファントム・ロード」、#8「ノー・リモース」と、突き抜けるような曲が続き、名曲#9「シーク・アンド・デストロイ」でずっしり重いメタルを聞くことができる。最後は本アルバム最速曲#10「メタル・ミリティア」で締められる。


 一般的には2ndアルバム「ライド・ザ・ライトニング」や3rdアルバム「メタル・マスター」がメタリカの名盤で、入門向けと言われている。もちろん自分も1stアルバムを聴いた後にその評判を信じ、両方を手に取った。だが、どちらも自分には「良いアルバム」止まりだった。まぎれもなく彼らの最高傑作は「キル・エム・オール」だと自分は当時信じていたし、現在もその考えは変わっていない。


 ただ荒々しく叫び、ドタバタした全力疾走でねじ伏せる。それがこのアルバムのテーマだと自分は感じる。なにも考えず突進する、若さゆえにできる音が詰まっている。ジャケットの血に濡れたハンマーは、自分の身とハンマーだけで敵に立ち向かった無謀な若者を表しているのかもしれない。十代半ばでエネルギーが有り余っていて、どこかに思い切りぶつけてやりたい。そんな自分の奥に秘めた欲求と、このアルバムはシンクロしていた。


 なにかに初めて挑むとうまくいかないものだ。でも初めての時の勇気が最も強く、鋭い。だからこそ、これ以降のアルバムが自分には物足りないように感じたのだ。


 無茶をしてみたい若者だった時にこのアルバムに出会えたかどうかでこのアルバムの評価は大きく変わると思う。運よく自分はタイムリーに出会えた。きっとこれからも自分はこのアルバムから力をもらい続けるだろう。

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