僕らはみんな夜を生きている
アーティスト:Steely Dan
タイトル:Aja(邦題:彩[エイジャ])
現代ポップミュージックでは歌や演奏が下手でもルックスとそこそこの個性があればミュージシャンやアーティストの末席が許されるのは公然の事実だ。
今や歌が上手いアイドルの方が少ないし、ロキノン系バンドの演奏だって中々に酷い。
別にアマチュアリズムが悪いわけではない。アマチュアリズムが聴き手の気持ちを揺さぶらずに、ただ表層だけの魅力で許されている現状に僕は非常に落胆しているのだ。
そんな何百回目か分からない呆れたため息の後は必ず僕はこのアルバムを聴く。Steely Danの「Aja」を。
この「Aja」はとてもつなく完成度の高いアルバムだ。
一流のミュージシャンが大勢集まり、一流の曲と一流のプレイが完全な編集によってパッケージされている。
一流が集まれば、必ずしも良い作品が出来るわけではない。四番バッターばかり集めた時の巨人は強かっただろうか?東大卒のエリートばかり集めた官僚組織は不祥事が一切なく清廉潔白だっただろうか?クリエイターやプレイヤーを使いこなし完全に能力を発揮させる事はそれほどに難しい。
そんなハードルの高いタスクをやってのけた…それが何より素晴らしいのだ。
少し、内容にも触れていこう。
サウンドは全体的にはジャズやソウルミュージックから影響を感じさせ、その後のいわゆるAORといったジャンルの雛形にもなっている。BPMは抑えめに、ヴォーカルはしっとり歌い、サウンドはジャジーでいわゆるロックミュージシャンよりはジャズやフュージョンを主戦場にしているプレイヤーがレコーディングに参加しているのだ。こういった後の、AORサウンドの定義を作った。良く言えば非常にオシャレ。悪く言えばデートの際のBGMミュージック。だが、それは後追いのテンプレしかなぞれなかった連中の話だ。「Aja」はそもそもの完成度があまりに違いすぎる。
アルバムは「Black Cow」からスタートする。ぶ厚いベースが印象的なイントロと美しい女性コーラス。そして、サックスの音が心地よいOPにはベストの曲だ。
タイトル曲の「Aja」は静かな入りから、徐々に曲全体が熱を持ちだし、名プレイヤーであるドラムのスティーブ・ガッドとサックスのウェイン・ショーターの驚異的なソロに突入する。この曲に関してはプレイヤーの強烈なプレイが曲の魅力を大幅に増幅している。そして、複雑な内容とプレイだが何故か聴きやすいとリスナーが感じてしまう「Deacon Blues」のあと、「Peg」を迎える。この曲は、良い曲と感じると共に難解さやノリきれない感情を持っていたリスナーの為に用意されたようなストレートな名曲だ。計算されており、スポンテイニアスとは真逆ではあるが、計算されてないとこんな素晴らしいポップネスは生まれないという好例の曲だ。僕はこの曲をハイライトに推したい。
その後しっとりとした歌モノといった印象の「Home At Last」。フュージョンイントロっぽく、跳ねるシャッフルを得意としてるミュージシャンを多く起用してることを改めて意識させる「I Got The News」。そしてピアノが印象的であり、リズム隊が変態だな〜とにやにやしてしまう佳曲の「Josie」で締められる。
とにかくアルバム全体に憎たらしいほどな隙がない。アルバム一枚作れば捨て曲の一曲や二曲はあるのだが、「Aja」というアルバムの完全な流れの為に一切のクオリティを下げた曲が存在しない。
そして、アルバムを聴いて貰えれば良くわかるのだが、僕が前半に述べたように上手い連中しかいない。それもそうだ、ウェイン・ショーター、スティーブ・ガッド、ラリー・カールトン、ジョー・サンプルといったジャズやフュージョンの大御所から、ヴィクター・フェルドマンやチャック・レイニーといった音楽オタクが喜ぶようなプレイヤーも配置されている。
テクニックのオナニー大会にならず、要所要所の安定したテクニックと何よりアルバムを覆う世界観の構成に尽力している。我の強いプロミュージシャンを納得させ良い意味で服従させてみたSteely Danの怪物っぷりには脱帽である。
ロックアルバムのようにテンションが上がるとは言い難いアルバムだが、良い音楽や良いプレイを聴いた時に漏れてしまうため息とも吐息ともとれぬ、素敵な感情は絶対に約束されている。
夜が悲しいあなたはお供に「Aja」を連れて、素敵な世界へと浸って欲しい。
(ジョルノ・ジャズ・卓也)
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