深奥と狂気の名盤~DIR EN GREY「UROBOROS」(2008)

 今から約10年ほど前、僕は15歳、中学3年生だった。

 当時の僕はL'Arc~en~Ciel、LUNA SEA、BUCK-TICKを知り、徐々にヴィジュアル系の沼に足を踏み入れており、それと同時にいわゆる普通の人やロッキング・オン的な音楽オタクからはどんどんそれていった頃である。

 なんの代わり映えもしない日常が音楽によって徐々に色づきだしてきたような、そして同時にあらゆるものへの苛立ちをつのらせていた頃、1つのアルバムが発売された。


    DIR EN GREYUROBOROS」である(2008年発売)。

  1. SA BIR  (サ・ビル)
  2. VINUSHKA  (ヴィヌシュカ)
  3. RED SOIL
  4. 慟哭と去りぬ 
  5. 蜷局 
  6. GLASS SKIN 
  7. STUCK MAN  
  8. 冷血なりせば 
  9. 我、闇とて…
  10. BUGABOO  
  11. 凱歌、沈黙が眠る頃 
  12. DOZING GREEN 
  13. INCONVENIENT IDEAL

 ヴィジュアル系に足を突っ込み始めていたのでDIR EN GREYという名前は知っていたし、発売される少し前にベストアルバムを借りていたので音楽性をある程度は認識していた。

 ただ、当時はスクリームやホイッスルボイスのような歌唱法にも激しい音楽にも全く馴染みがなかったため、いまいちピンときていなかった。


 それでも、初めてCDショップで見た時、足を止めずにはいられなかった。今でもなぜかはわからないが、絶対に通り過ぎてはいけない気がした。自分が何を求めているのか、答えがあるような気がした。

 吸い込まれるように試聴機に手を伸ばし再生した瞬間、恐怖を覚えた。

 それまで自分の聞いてきた音楽とはあまりにも異質だった。ポップミュージックの持つ光やロックの持つ力とも、何よりも今まで自分が知っているDIR EN GREYとは全く違っていた。

 ただただ広がる暗黒。地を這いずり回るようなリズム隊と重々しいギターリフ。何よりもあらゆる歌唱法で狂気や闇を伝えようとするボーカル。

 今振り返るとバンド自体が全てにおいてネクストレベルに手をかけていた瞬間に立ち会ったのだろうが、当時は自分の認識できる世界を完全に超えてしまっていた。普通それなら買わないのだが、それでもなけなしの銭を握りしめ衝動的に買ってしまった。

 それから、ほぼ毎日のようにこのアルバムを聞いていた。自分の苛立ちをぶつけ解消されていくのを感じながら、そして新たな扉が開いていくのを実感しながら・・・。


 今だからこそ冷静に見れるのだが、それでもなおこのアルバムは凄まじい。

 サウンドはカオティックでコアな方に向かい、メロディアスな部分や静寂を生かしたエモーショナルなパートもあるが全体的に複雑で解りやすさやキャッチーさは皆無。

 代わりに楽曲、そして京の変態的すぎるヴォーカルワークはかなり凄まじく、彼等が孤高の存在であるという事を否応がなく認識させる作品である。まさかここまで進化し深化した作品を作り上げるとはおそらくファンですら誰も思っていなかっただろう。

 土着宗教的なおどろおどろしさを感じる1曲目から、2曲目で繰り出される9分以上の大作であり本作の白眉「VINUSHKA」で早くも自分の負の感情を一気にかき乱され、暗黒に誘われる。

 もともと、憤怒、憎悪、虚無、悲哀、強欲、暴虐、陰鬱・・・あらゆるネガティブな感情を極端な静と動と美をもって表現することを是としてきたバンドだったが、今作においては全てが今までの作品とは段違いであり、聴く人間を問答無用で奈落の底へと引きずり込む。

 また陰鬱で禍々しい「SA BIR」から終わりの中の救いのような「INCONVENIENT IDEAL」へと収束していくアルバムの流れは、禍々しくも美しい異形、まさしくアルバムのタイトル通り死と再生の象徴「UROBOROS」をはっきりと浮かび上がらせる。

 本作の評価自体も非常に高く、Billboard 200で初のランクインを果たした上、Dream Theaterの元ドラマー、マイク・ポートノイは本作をお気に入りのアルバムに選出している。

 このアルバムは自分の趣味嗜好や考えや死生観を完全に一変させてしまった。それは今ではより深まっているし、おそらく今後も影響を受け続けるのだろう。


 自分の経験なんて抜きにしても、このアルバムは日本人にしか作り出せないおどろおどろしさの詰まった、日本メタル史に燦然と輝く最狂の名盤だと思っている。

 

 最後におすすめを・・・

 どれも2012年のリマスター版の音源なので各パートがはっきり聞こえてたり、オリジナルとは音質がちょっと違うんですけどね。

 (The End RecordsというDIR EN GREYのアメリカでのリリース元となる会社の公式音源です。)

 「Dozing Green」 (Uroboros Remastered & Expanded)

最後のホイッスルボイス3連発がエグい

Glass Skin」 (Uroboros Remastered & Expanded)

 初心者に一番薦めやすいDIR EN GREYの音源。

Vinushka」 (Uroboros Remastered & Expanded)

DIR EN GREY史上屈指の名曲。

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